決別


昨日の夜、電話しようと誘われた。

愚かな人間なので、ずっと好きだったので、少しくらいは悩んだけれど、結局のところは「いいよ」と返事をしたのだった。


何を考えているの?と聞かれ、嫌いになりきれなかったと言うと、よくまあそんな恥ずかしいこと言えるねと、笑われた。

三時間近く、これまでのことが嘘かのように、お互い大好きだった頃と変わらずにずっと話していた。夫婦漫才のようなやり取りを相変わらず繰り広げていた。正直、こんなに楽しく話せる人、他にいないと思った。無言の時間すら愛おしいと思ってしまう。

何度か冗談で今も好きというようなことを言われたけれど、嘘ばっかり言うねと言うと、うん嘘だよと答える。嘘じゃなければいいのにな、と思いながら笑うのが辛い。


喧嘩したあの日をわたしたちは振り返った。

何があり、何を考え、どうしてめちゃくちゃになってしまったのか。そんなことを話しても仕方がないのは明らかだったけれど、わたしたちはあの日を後悔していたのだ。

わたしだけじゃなかった。それがわかったのがせめてもの救いだったと思う。


もう電話をしないと、彼は言った。

でもそんな言葉も、電話が終わる頃には撤回されてしまった。わたしは、彼を諦めるためにはもう電話をしてはいけないと思った。

また好きになって困らせちゃうから、もうしない。

彼は、困らないけど、そう。と、それだけ。

じゃあおやすみ。

またね、なんて言葉はわたしたちに存在しない。これが本当に人生の別れだ。


最後まで本当のことを言ってくれなかった。

結局彼は、肝心なところは何も言ってくれないポンコツな男ということだ。知っていた。

でももし、引き止められていたら、わたしは泥沼にまた落っこちていたと思うし、これで良かったと自分に言い聞かせる。

21歳だ、もう不毛な恋愛で心をすり減らしている場合ではない。大好きでも無理なことは無理だと割り切り、もっと自分に見合った幸せな恋を探した方がいい。彼もそう、わたしのような人間がいつまでもそばに居れば、彼女もつくれない。

困らないなんて言い方はあまりにもずるい。

本当は彼も、わたしのことを好きなんじゃないかと心のどこかで思いながらも、でもそれはプライドに関わるかと思い、言わなかった。

今生の別れだというのに言わないのであれば、それなりに覚悟を決めているのだろう。


ほんとうにさようならだよ。

もっと他に言うことあったかもしれない。

でも、もういい。

決別したって、きっと彼より好きになれる人なんてこの先ずっといないに決まっている。

一生、彼とほかの人を比べて落ち込んで傷ついて傷つけて、自分で首を絞めて生きていくんだ。

それでも幸せになろうとしてあがくよ。

彼のいない世界で、少しでも幸せになろうとしていくよ。なかったことにはできないけど、後悔するのもやめて、心の中の君と生きていくよ。