君と眠る 土曜の朝

これから書くことはすべて妄想です。



よく晴れた日の土曜日の早朝に目を覚ますと、もうすぐ5月だというのにまだ冬用の布団をしっかり首元までかけて、静かに寝息を立てている彼が隣にいる。布団の中でしっかり暖まった手のひらで彼の手を探し当てて、ぎゅっと握る。彼のまぶたから綺麗な曲線美を描くまつげが震えた、と思った次の瞬間にはまぶたが開き澄んだ瞳が現れる。

「おはよう。」

私が発した言葉は、予想よりも掠れていた。

彼がベッドの右側にいる私の方を向く。私の言葉が聞こえていないのか、それともまだ寝ていたいという反抗なのか、まだ眠たそうな顔を向けたきり何も言わずに再びまぶたを閉じて見せた。

私はなるべくベッドが揺れないように慎重にベッドから体を起こし、そろりと床へ足をおろした。床はひんやりと冷たさを持っており、私の目を覚まさせ、眠っていた思考を徐々に取り戻させるようであった。

今日は二人の休日だから、どこかへ行こうという約束をしていた。

一緒に暮らしているのに、私達の休日が重なることはあまりなく、お互いに朝と夜に少し会話をして生きていることを確かめるだけのコミュニケーションしかとらない。私達は恋人なのに。恋人だから、というふうにも言えるだろうと思う。私は彼にいつまでも恋をしているし、彼だって私を嫌っている様子は無い。それ以上のことが必要だろうか。私達は毎日顔を合わせ、「おはよう」と「おやすみ」を言える。それだけで幸福に満ちている。

「おはよう。」

不意にベッドで横たわり続ける彼が声を発した。

「今日は天気がいいから、散歩に行こうか」

そう言うと彼も体を起こす。ベッドが私以外の重みによって軋み、振動を起こした。するりと彼の腕が伸び、私の腕を掴むと、そのまま体をベッドへと引き戻す。暖かい布団と彼の体温に身を預けると、覚醒した脳が再び眠りを誘い出す。

「出かけるのは午後にしよう。二度寝だよ。」

いたずらっぽく彼は笑う。日に焼けていない色白の彼の肌が、カーテンの隙間から差し込む朝焼けの光に染まる。

「遠出したいって行ってたじゃん。」

「それは連休の時にしよう。」

「せっかく早く起きれたのに、勿体無いよ。

「眠たそうな顔で言われても説得力ない。

彼は布団の中で私の背後から腰に手をまわして、抱きしめた。布団から出さないつもりらしい。ベッドへ引き戻されることに抗わなかった時点で私の負けは確定していたようだ。

「9時に、アラームセットしてあるから。」

彼は先程よりも小さく力ない声で言った。どうやら彼もまた眠気に襲われているらしかった。二度寝を勧めてくるところ、そういうところが彼らしく、愛おしいなと思う。

「おやすみ。」

「おやすみ。」

幸福を噛み締めながら眠りについた。


おしまい。